ちゃん付けで呼ばれるなんて。やっぱり私の知ってる中島くんじゃない。
クラスの女の子には、たしか全員、苗字にさん付けしていたはず。
それに、さっき「たしか同じクラスだよね」なんて言ったくせに
私の下の名前までしっかり知っていることに驚いた。
だけど今は、そんな呑気なことを考えてる場合じゃなくて。
「お話は、結構です……」
生徒会室のゴミを捨てに来たのも忘れて、そのまま回れ右をしようとしたけど、中島くんはそれを許してくれなかった。
肩をつかんで、無理やり向かい合わせられる。
「待ちなって。俺が話したいって言ってんだ」
「私は話したくない……じゃなくて! 大丈夫、言わない。先生にも誰にも言いません……」
「信じれるわけねぇだろ。さっきの今まで俺に悪態ついてたヤツの言うことなんて」
「う……」
どうしたら信じてくれるの?
さっき言ったことは本心だけど、本気で先生に報告しようと思ったわけじゃない。
そもそも、伝えたところで私にメリットがあるわけでもないし……。
ぐるぐる考えてたら、はーっ、と長いため息をつかれた。
「あー、もういい。時間のムダ」
あ、諦めてくれたのかな。
離してくれるのかな、とホッとしたのもつかの間。
つかまれてた部分をさらに引き寄せられて、目の前がふっと暗くなった。
煙草のにおい。中島くんの体温。
包まれた。
予想外の事態に固まるしかない。
それから間もなく
ちゅ、と小さな小さな音がして
唇といっしょに
思考まで奪われた──────。