「着いたよ、はのん」


ハッとして顔を上げたら、いつの間にか保健室の前。
遼くんが扉を開けると、中に居座って騒いでいた生徒たちは一瞬にして静かになり。




「ここに用がない人は、みんな出ていってくれるかな」


生徒会長の声がかかると、一斉にピンと背筋を伸ばして、「失礼しました!」と疾風のごとく去っていく。


私の横を、風が勢いよく吹き抜けた。

保健室は、あっという間にもぬけの殻。




「やっぱりすごいね、遼くんは」


感心して声を上げれば


「別に。親の力だよ」


と苦笑いを返す。




そういう謙虚なところも好きだよ、と心の中でこっそり付け足して、中に入った。

お昼休みだからか、先生はいないみたい。




「ごめん。俺はもう仕事に戻るから。はのんはゆっくり休んでて」

「うん、ありがとう」



お礼を言ったら、頭をポンポンしてくれた。
付き合ってたころと変わらない優しい手つき。

でも少しだけ、ひかえめな気がする。


離れたくないな、なんて思いながらも、決して口には出さない。



手を振って、遼くんの背中を見送った。