灰田くんがインターホンを押すと、しばらくして扉が開いた。
中から出てきたのは、同い年くらいに見える男の人だった。
とても静かな空気をまとっている。
「よお、本多君」
灰田くんが相手に向かってそう言った。
ホンダくんと呼ばれたその人の右腕には包帯が巻かれていた。
「先生は今いないよ」
イメージ通りの、落ち着いた低い声。
「見舞いに来たんだ。入っていいか?」
返事を聞く前に、本多くんの横を通ってみんな中に入っていく。
────だけど。
「琉生なら今さっき退院した」
その声に足が止まる。
「マジかよ」
「たった5分ぐらい前に出ていった。明日から学校来るんじゃない? 退院祝いにコーラでも買ってやりなよ」
「……おー。そうするわ」
そういう答えつつ、踵を返すことはしない。
「せっかく来たんだから、ちょっと休ませてくれ」



