教室に戻ってきた上月の顔は、ほんのり赤く染まっていた。

ここ最近は目もろくに合わせようとしなかったくせに、なにか言いたげな目で俺を見てくる。




「あの、中島くん」


目を逸らした。


お前の幸せな話なんて聞きたくない。

上月が幸せになりますようになんて、願わなきゃよかった。





「あのね、デ、デートのことなんだけど……」

「もーいい」


遮るタイミングで低い声を出したのは、その先を聞く勇気がなかったから。



どうせ断られる。

もしかしたら、約束だからと気を遣ってくるかもしれないけど。



「えっ……でも、」




あきらかに戸惑った声を出してるけど、本当は、安心してんじゃないの?

好きな人とじゃないと、そういうことはしたくないって言ってたもんな。




「ていうか。本気にしてたの」

「……え?」

「上月とデートしたいとか、冗談に決まってるだろ」




頭にセリフを書いてなぞった。

嘘でも、嘘で固めれば、いつか本当になるから。




「じゃあ俺、用事あるから」


最後まで目を見れなかった。

どんな顔をしているのかわからない。

もう、知る必要もない。


向かい合ったところで、どうせ俺もひどい顔をしてるんだから。