「さっき会った女の人は、紗世さんっていう名前で、……遼くんの婚約者なんだよね」
突然話し始めた私に、中島くんは驚いた顔をした。
制するように「無理して話さなくていい」と言ってくれた。
それを無視して話を続けると、黙って聞いてくれた。
うつむいて、私の目を見て、また逸らして。
ときどき受け止めるように静かに相づちを打ってくれた。
遼くんのお父さんは大病院の医院長で
遼くんも将来はそれを継ぐことになっていること。
紗世さんという婚約者がいながら私と付き合って、家族に反対されいたこと。
付き合っている間は、それを私にずっと隠していたこと。
別れたというデマを流したのは紗世さん。
それは紗世さんから直接教えてもらった。
私が遼くんと付き合っていたら、遼くんの家族どころか、親戚まで滅茶苦茶にしてしまうと。
私が一緒にいれば将来を潰してしまう。
同じ高校、同じ大学に行くなんて夢は捨てろと。
遼くんは確かに私のことを好きかもしれないけど
付き合っているかぎり、確実に無理をすることになると。
本人が黙っているだけで、本当は家に帰るとお父さんに別れろと、毎晩怒鳴られているんだと。
そして紗世さんにも、紗世さんの家にも泥を塗ることになるんだと。



