中島くんのことだから、自分を悪く言われたことを真っ先に怒ると思ってた。

私に対してはいつもそうだから。

子供みたいにすぐ不機嫌になって、嫌味を言ってくる。


でも今回は違った。

相手の挑発的な態度には乗らず、かといって低い姿勢もとらず。
一歩まえに出て、冷静に受け答えをしている。


静かに相手を見据えて、纏う空気もすごく静か。

たとえこれが作りものだったとしても、この切り替えは並の人間にはできないと思う。




「ふうん。 ずいぶん上月さんの肩を持つんだね。好きなの?」


紗世さんが吐き捨てるように言った。

ドクッと胸が鳴る。

中島くんの足元を見つめて返事を待つ。


……なんで、何も言わないの。


数秒経ってゆっくりと顔をあげた直後、
紗世さんに腕を掴まれた。

強い力で引き寄せられる。

紗世さんの隣に立っていた悠人さんに、勢いよく肩がぶつかった。




「そうだ。 いいこと教えてあげよっか」


紗世さんの視線が中島くんに向けられる。

とたんに体からサアッと血の気が引いていく。

────やめて。言わないで。

頭の中で叫んでも、声にはならない。




「上月さんは─────」



目の前の景色が波打って見えた。

頭がぐらぐらして、足の力が抜ける。


次の瞬間真っ暗になった。