さっきから、もともと熱かったのに。

沸騰してるみたいに熱い血液が巡って、脈が加速して。
そして抱きしめているのに力のこもらない腕、鼓膜を揺らす弱々しい声に急に不安になった。



周りはわいわいガヤガヤ、本当は騒がしいはずなのに、そこからとても遠い場所にいるみたいに何も聞こえなくなる。

頭もぼんやりとする。


中島くんのにおい。

ほんのり甘くてやさしい

のに、

いつも私の心の不安定な部分をさらに乱してくる。


抱きしめて返そうと手を伸ばしかけたのは、無意識な気もするしそうじゃない気もする。

そんなあいまいな思考回路、

はっきりさせたいのに、もうどっちでもいいや、って手放したくなる。



その数秒間は、私の世界は
たしかに中島くんと二人だけだった。

ぜんぶ中島くんが支配してた。


……だけど。




「─────上月さん?」


手前から飛んできたその声が
あっという間に私を現実に引きもどす。

凍りついた。

顔をあげることすらできなかった。


相手の姿を見てもないのに、胸を切り裂かれたような痛みが走った。



見なくても、誰だかわかってしまう。悲しいくらいに覚えているから。

甲高くてよく通る声、澄んだ大きな瞳。

それは私に向けられた途端、氷のように冷たくなる。