横目で遼くんのほうを見てみたら、幸い自分の作業に集中しているようで安心した。
もう一度「離して」と言ったら、中島くんはしぶしぶうなずいて距離をとり、ペンキの入った缶を持つと、私を壁の方に誘導させた。
「今から上塗るから、ハシゴ下から支えてほしい」
そう言いながら、軍手を装着。
どうやら今度こそマジメに作業する気になったらしい。
よかった……と思いながら、中島くんがハシゴに足を掛けるのを待っていると、なにか言いたげな目でこちらを見てきた。
「……なに?」
「煙草吸いたい……」
「今それ言うの? ガマンしてよ」
煙草の禁断症状って、イライラしたり眠れなかったり、けっこうしんどいって話だから、ガマンするのも大変だとは思うけど。
「アメ取って」
「はい?」
「ポケットの中にある。俺、軍手したから取れない」
軍手くらいすぐ外せるでしょ! と思いつつ、また言い合いになるのも面倒くさいから大人しく従うことにする。