椅子をひきずる音が鳴り響いたあと、気をつけして一礼。
「ごめん聞こえなかった。何?」
着席して聞き返すと、目を斜めに逸らされて。
「……やっぱいい」
「いいの?」
「こーゆーのは勢いで言うもんじゃない」
こうゆーのって……どうゆーの?
「タイミングミスって断られたらダサいだろ」
「……」
「上月、平気でヤダとか言いそうだし」
「……」
「お前、思いどおりにならない女だしな」
「……」
「さっきからなんの話してるの?」
私を無視して板書を写し始めた。
ねえ、ともう一度声をかけても見向きもしない。
しかたないから、私も授業に集中することにする。
だけどページをめくるたびに視界の端で綺麗な黒髪がサラッと揺れるし、甘い香りがフワッと鼻孔をくすぐるしで。なんだかずっと落ち着かなかった。