「……歴史の教科書わすれるなんてことあるの?」
国数英の教科書ならともかく、それ以外の教科はロッカーに置きっぱなしにすることがほとんど。
「俺はマジメだから」
「不良のくせに?」
「煙草やめただろ、ちゃんと」
「……ほんとに、もう吸ってない?」
中島くんの手が私の日本史の教科書をパラパラとめくり始める。
「吸ってないよ」
「……ふうん」
どこまで進んだかを把握しているらしく、ちょうど前回の続きのページで手を止めて。
ふいに、落とされていた視線が私のほうを向く。
「えらい?」
切れ長の目がゆるやかに弧を描いた。
「えらいっていうか……そもそも未成年は手出しちゃだめなものだし」
「でも、頑張ってるから褒めて」
「ええっ……」
甘えモード発動。
どんな役だってこなしてくるな、って関心する。
……こういうことは、好きな人に言えばいいのに。
「煙草って知っての通り依存性あるから、けっこーきついんだよ」



