教室に向かって早足で歩く。
最低最低最低最低。
最悪最悪最悪最悪。
「なあ、上月」
「……」
「上月ったら」
「……」
後ろから、同じ歩調で追いかけてくる。
「ついてこないで」
「はあ? 俺たち、同じクラスじゃん」
「知らない、話しかけないで」
「冷たいなあ、はのんちゃん」
きゅっ、と足を止めたら、中島くんも足を止める。
睨んだ顔で振り返ったら、ひょいと肩をすくめてみせた。
「二度と下の名前で呼ばないで」
「ええ…」
「みんなの前では、ぜったいに苗字にさん付け。約束して。 破ったら、煙草のことばらすから……っ」
少し間をおいて、中島くんはうなずいた。
「わかった」
進路に関わることだから、そこは慎重らしい。
「あーあ。ムカつく」
そんなセリフが付け足されたけど、無視。
いちいち相手にしてたらきりがない。
「めちゃくちゃにいじめ倒してやりたいなあ」
聞こえない、聞こえない。
さらに足を早める。
中島くんと一緒に入ってきたと思われたくないから。
急いでドアに手をかけて、中島くんが来る前にと、閉める──────閉めようと、した。