言葉とは裏腹な優しい口調。
ずいぶん長い間待たせていたから不機嫌モードを予想してたのに、雰囲気が柔らかいうえに自然な笑顔で笑いかけてくるから、ホッとすると同時にどこか拍子抜けしてしまう。
「やっぱ長引いたんだな。お疲れ」
笑顔のままそう言われて中島くんをじっと見ると違和感を覚えた。
笑顔だからってだけじゃない。さらに見つめ続けて、ようやく正体に気づく。
いつもは首元までしっかり留められているボタンが、上から2つ目まで開けられていて。
柔らかそうな黒髪は無造作に乱されていて。
いつもピンと伸びた姿勢をゆるく崩して腕を首の後ろで組み、長い脚を投げ出していた。
なんか不思議な感じ。
優等生の中島くんはここにはいない。
やんちゃな男の子って感じがする。
かと言って荒々しい雰囲気もなく。 実際、かけてくれたのは労りのセリフ。
「遅くなってごめん」
「いーよ。 てか、待つって言ったの俺だし」
近づくと、机のうえには学校指定のものじゃない数学の参考書が広げられていた。