これは離れる口実ができたんじゃないかってホッとする。

読み通り、腕の力を弱めた中島くん。




「ちょっとごめんね」


断ると、名残惜しそうにゆっくりと腕がほどかれる。



取り出して画面を見てみれば、表示されていたのは遼くんの名前。




「────もしもし?」

中島くんに背を向けて電話に出る。




『ああ、はのん? 申し訳ないんだけど、生徒会室来れない? 資料作り、手が足りなくて』


「あっ、今から?」



どうしよう、ご飯も食べてないしなって一瞬考えたけど
遼くんの頼みなら断れない。

むしろ、私が一緒にいたいって思うから。




『忙しいなら、他の人に頼むけど……』

「ううん大丈夫だよ、遼くん。 すぐ生徒会室行くね」



そう言って電話を切る。
中島くんに「じゃあそういう事だから」と言うつもりで再び向き合った

────けれど。



振り向いたときには、なぜかもうベッドから立ち上がり、シャツを軽くはたいていて。


帰る気になったのかと思ったけれど、歩いていったのは保健室の裏口のほう。




「ちょっ、どこ行くの?」

「煙草」

「はあ? 何言ってるの、だめだよそんなの吸っちゃ。ていうか、また見つかったらどうす────」

「だるい」

「……は」


なぜか怒った様子でため息をつかれる。




「やっぱ、好きとかいいことねぇー…」


小さい声つぶやくセリフがまたしても聞こえない。



「なんて言ったの?」

「早く行けって言ったんだよ。りょーくんのとこ」



ぶっきらぼうに吐き捨てると、一度も私を見ることなく裏口から出ていってしまった。