相手は病人。
言われることに対していちいち文句を垂れていても仕方がない。
保健室入り口に設置されてる冷水機。
備え付けの紙コップをとってバーを引く。
内側からひんやり冷たい感触が伝わった。
「持ってきたよ」
「どーも」
「飲める?」
「は?」
「あっいや、あの。……自分で持って飲める?って意味なんだけど……大丈夫だよね、アハハ」
昔インフルエンザになったとき、体に力が入らなくて受け取った水を落としてしまったことがある。
その経験から無意識にそう口にしてしまったけど、小さい子ならともかく、男子高校生にそんなことを聞くのは我ながらどうかと思う。
「なに、飲ませてくれんの」
「っ、違う。ちょっと間違った」
「上月って病人にはすげー優しいのな。 ちゃんと、相手が俺って分かってやってる?」
「うん。わかってるわかってる。小さな子とか思ってない、大丈夫」
顔を背けながら水を渡すと、私の手に添えるようにしてそっと受け取り。
「わかってんなら、俺にあんまり近づかないほうがいいんじゃない」



