Room sharE



俺が指摘すると、悦子はまたも大げさと思われる仕草で表情を歪めた。


「酷いわ……親友を亡くしたばかりなのに……あんまりよ……それに私たちは幼稚園から一緒だったのよ。それなのに……何も知らない癖に……」


見る見る内に大粒の涙を浮かべてそれをぽろぽろ流す悦子に若干うんざりして大きなため息を吐いた。


「別にいいけど。あんたたちがどんな付き合いをしてたのか、なんて興味ねぇし」と、呆れて自分を取り繕うことなく“素”が出ちまった。


「だけどそこんとこ認めなかったら、真実は闇に葬られたまま。それはあんたにとって不利な事態を招くかもしれないけど?」


「私を……脅す気……?」


悦子は流れる涙を強引に手の甲で拭って眉間に皺を寄せた。俺はちょっとだけ身を乗り出すと、悦子のまだ頬に残った涙の雫を親指の腹でそっと拭った。


「認めちまえよ。そうしたら楽になるぜ?」


ニヤリと笑って低く呟くと、悦子は少しの間考える素振りを見せたがやがて大仰にため息をついて目を細めた。


「とんだ食わせ物の刑事ね―――。


そうよ。あなたが言った通り、私は冬華が大嫌いだった。


昔から冬華は私なんかも及ばないお金持ちで、美人で頭が良くて……私が必死に勉強していたにも関わらず涼しい顏で学年首位をキープするような女だった。


それどころか、私の好きだった人や彼氏は冬華を紹介すると、みんな彼女を好きになったわ。


昔からそうだったの。人のものにすぐ目を付けて奪うのが趣味みたいなもんよ、あの女は―――


今回だってそうでしょう?あのヒモ男、ホントは冬華の隣に住んでた女と付き合ってたみたいじゃない。冬華のせいで自殺しちゃって、可哀想に。でも平然と隣に住めるあの女の神経、理解できない」


ちょっとつついたら、出るわ出るわ。ため込んでいたであろう罵詈雑言が。


「あんたは―――冬華が生まれついての“勝ち組”だと、思っているのか?」


「まぁね。でも結局死んじゃったから、意味がないけどね。でも最後の最期に浮気されて、その男を殺すなんて


冬華も馬鹿よね。


ねぇ、冬華はあのヒモ男の遺体を一週間以上もクローゼットに隠してたんでしょう?いくら真冬だからって物理的にそれは無理じゃないの」


さっきまで涙さえ見せていた悦子は、急に興味深そうに目をきらきらさせて俺に問いかけてきた。それに関してのトリックも解明済だ。


冬華は恐らく松岡を殺したであろう日から事件の発覚までの大よそ一週間という日々、毎日あるケーキ屋でケーキを買っていた。それも毎日決まってホールだ。


いくら二人で食べている、と思わせようにもいくら何でも多すぎる。それが逆に不自然だった。俺と一番最初に出会ったときも彼女は大きなビニール袋を提げていた。それから一週間彼女と時間を共にしたが、彼女は決まってそのビニール袋を提げていた。小さな引っ掛かりだった。何が―――と言われれば、そのときははっきりとした理由は分からなかったが、でも違和感を覚えたのは確かだ。


気になって店に確認したところ、事情を知らない店員はすぐに教えてくれた。





冬華の目的は―――、ケーキなんかじゃなかった。





では何が目的だったか、というと持ち帰り用の保冷材……いや、











ドライアイスだったのだ。