それは、なんの前触れもなくやってきた。



今日はなんとなく部屋にいたくなくて、一人でいたくなくて、リビングの大きめのソファで本を読んでいた。




台所には夕飯の準備で母がバターの匂いわさせていた。



集中出来ずに読んでいた本。


物語もようやく終盤に差し掛かった時、





「花実ちゃん引っ越すんだってね」



母が台所のカウンターから顔を覗かせてそう言った。



「え?」

思わず本を持っていた手も力が抜ける。


「仲良かったからかなり淋しいんじゃない?優、友達花実ちゃんだけだったでしょう?」




母が笑ってバカにしてきたのも気にならないほど、優の頭は硬直し、考えることを放棄した。




「本の貸し借りもしてたよね?ちゃんとお別れまでに返しなさいよ」