本が好きだった。



コートを羽織り、初めて買ってもらった財布に市内で一番大きな図書館の利用カードだけを入れて駆けてゆく。




それが小さい頃からの佐倉優(さくらゆう)の楽しみだった。




その日はいつもより風が冷たく、お母さんが青よりも薄く、水色よりも少し濃いめのマフラーを巻いてくれたのを覚えている。




小学5年生だった。




その頃の優は「星新一」にハマっていた。




借りていたきまぐれロボットをカウンターで返し、またすぐに星新一の並ぶコーナーへ向かう。




次は何を借りようか。




星新一は短編集が多いので、試し読みをしているうちに一話読んでしまうのが悩みだった。





数ページ読んで、夢中になっていることに気付き、慌てて本を閉じた。




こんな大きな図書館が家の近くにあって良かったと思いながら、本を三冊脇に抱え、絵本コーナーの横にある優のお気に入りの席に座る。





佐倉家の門限は6時。




今からだったら2冊は読める。




時計を見て頭の中で大体の計算をし、1ページ目を開いた。