風花ちゃんは律さんに

よく似てる。

私のちょっとした事にも

すぐ気が付いて心配してくれるし

真正面から向き合おうとしてくれる。

無条件に優しさや温もりを

くれるの。

律さんに言われた言葉が

記憶の中から溢れてくる…

『日和ちゃん、無償の愛って

知ってる?

何の見返りもなく、ただ大切な人を

守りたい…笑って欲しい、

支えたいって思うの。

それは家族でも友達でも恋人でも

関係なくて…

それが無償の愛なの。

日和ちゃんにもそういう風に

想える人が出来たら

大切にしてね?』

でも、律さん…

もし、私の過去を知って

離れて行ってしまったらって…

思うと怖いの。

1度でもその温かさを知って

しまったから、失うのが怖い。

「日和…大丈夫?」

え?

大丈夫って…なにが?

首を傾げると、ハンカチを

手渡されてポカンとしてしまう。

「泣いてるから…」

「え…」

泣いてる?

そっと目元に手をやると

濡れていてビックリした。

無意識だった…

律さんの事考えてたからかな?

知らず知らずのうちに

溢れてしまう涙は拭っても

止まってくれなくて…

心配そうに私を見つめる

風花ちゃんに私は自嘲の笑みを

返した。

「へへ…どうしたんだろう。

止まらないや…」

笑いながら拭い続ける私の

手が止められて…

その手の先にいる人へと

視線を上げると、そこには

真剣な顔をした

日下部くんが立っていた。

「日和、何で泣いてんの?

1人で何でも抱え込まないで

話してみ?

ちゃんと聞くから」

しゃがみ込んで私を見つめる

日下部くんは手をギュッと握り

優しく微笑んだ。

以前と変わらない眩しい笑顔に

ドキドキする気持ちと

ほんの少しだけ胸がチクっと痛んだ。

「私も聞くから…

日和、話しよう?」

風花ちゃんの声に隣で頷くのは

羽柴くん。

本当なら、こんな優しい目を

向けられる人間じゃないのに

どうしてみんなは

こんなにも優しいの?

律さん…

これが無償の愛?

私がみんなを大切に想うように

みんなも私を大切に想って

くれてるってことなの?

私はこの優しさに甘えてもいいの?

手を伸ばしてもいいの?

『いいのよ、日和ちゃん』

ふと律さんの声が聞こえた気がした。

その声が本当に律さんの声なのかは

分からない…

私の願望が都合良く律さんの声に

変換してしまったのかも。

私の手を握る大きくて

温かい手をギュッと握り返して

「…うん、話したい。

聞いて欲しい」

目の前にいる好きな人に笑った。