放課後になっても日下部くんに

対するこの気持ちが分からなくて

私は1人考えていた。

もし、あの告白が本当なら

きちんと返事しないとって思うのに

心の中にある不安定な気持ちが

まるでシーソーのように

上がったり落ちたりしてる。

1人になった教室から

何となく見えた校庭に

今まさに考えていた日下部くんが

練習に励んでいるのが見えた。

普段のニコニコ笑顔じゃない

真剣な表情の日下部くんは

眩しくて目を覆いたくなるけど

いつまでも見ていたいという

気持ちもある。

それを外から見ている多数の

女の子達は誰も彼も日下部くんに

声援を送っていて…

なんだか胸がチクッとした。

私ではない誰かに笑顔で応える姿に

言い表しようのない真っ黒な感情が

心を覆い尽くす。

なんでこんな風に思うんだろう?

日下部くんは誰にでも優しくて

分け隔てなく平等に接する人って

分かってるのにな…

いつも1人で過ごす私にも

ずっと話し掛けてくれて

いざって時には必ず助けてくれて

私の為に沢山の時間をかけて

ここまで連れてきてくれた。

そして、風花ちゃんと羽柴くんという

素敵な友達にも出会わせてくれた。

だから、今こうして毎日の中に

幸せを感じる事が出来たのも

全部日下部くんが居てくれたから。

日下部くんの存在がいつの間にか

私の心を掴んで離さなくて

気付けば目で追って、でも目が合うと

逸らしてしまう私を

「逸らすなよー!日和ー!

寂しいじゃんか…」とワザと

拗ねて見せる。

口を突き出している姿は

背の高い日下部くんには

ミスマッチ過ぎて可愛いとさえ

思ってしまう。

どんなに離れたところに居ても

日下部くんの優しさのこもった声や

無邪気な笑い声…

そして、「日和」と私の名前を

呼んだ時の温かい声に

安心する私がいる。

認めたくないけど、好きと

思ったら心の中の不思議な感情が

ストンと収まるべき所に

収まったみたいに落ち着く。

好きだと認めてしまえば

心が温かくなって

また人を好きになれた自分を

好きになれる気がしてる。

あの日、初めて声を掛けられてから

私の中の止まっていた時計が

動き出して、それは全部

日下部くんのおかげ。

初めは何この人?って思ってたこと

謝るね…

ごめんなさい。

日下部くんには沢山のものを

貰った。

私はそれに返せるものが

何もない…

それどころか傷付けるような

言葉ばかり言った。

それでも、私を見放したりせずに

そっと傍に居てくれたこと

今では素直にありがとうって言える。

律さんには一歩進んでみるって

宣言したけど、これだけは…

この一歩だけは進めてはいけない

気がする。

大切な人にはずっと

笑っていて欲しい。

日下部くんの笑顔は周りを

温かくするし

それを私が消してしまうなんて

考えるだけでも苦しいの…

だから、私はこの気持ちと

決別しなきゃ。

友達の1人としてなら

傍に居てもいいかな…

校庭で懸命に走る日下部くんには

届くことのない気持ちを

今だけは素直に声にしたい。

「私を好きになってくれて…

私に幸せだと思える毎日を

くれて本当にありがとう…

好きだよ、日下部くん」

日下部くんの姿がどんどん

滲んで見えた。

いつの間にこんなに好きになって

たんだろうね…

溢れる涙を拭うことも忘れて

私は必死にボールを追いかける

日下部くんを見つめた。

本当にありがとう…

日下部くんを好きになれて

良かった。

でも…私は今日キミに

嘘をつく。

また傷付けると思う…

けど、これが最後だから

許して下さい。

私の誤魔化しを簡単に

見破ってしまう日下部くんに

絶対に悟られないように…

最後まで笑顔で…