教室に着いて席に座った私を

見つめる視線を感じて

いると、日下部くんと目が合った。

っ!!

さっきの出来事を思い出して

私は慌てて目を逸らした。

再び感じる熱さに

私は教科書でパタパタと仰いだ。

授業が始まり熱も引いた頃、

先生に当てられた私は

痛む足をひきずりながら

黒板に答えを書き出していく。

なんだか足の痛みがどんどん

悪化している気がするけど

あと少し頑張れ私!

書き終えた私に

「おし、正解。

席戻っていいぞ」と

言った先生に一礼して

席へと戻ろうとした瞬間、

足の痛みに顔が歪んだ。

我慢、我慢!

そして席へと向かおうと

足を一歩踏み出した時、

痛みに耐えられず

しゃがみこみそうになった

私の腕を誰かが掴んで…

そっと顔を上げると

それは真剣な表情をした

日下部くんだった。

そして

次の瞬間、私は宙に浮いている。

「きゃっ!?」

これって…

世に言う、お姫様抱っこ!?

横抱きにされた私は

放心状態で、クラスの人も

先生もポカンとして

固まっている。

静寂に包まれる教室に

日下部くんは1人だけ

落ち着いた声色で言った。

「先生、花宮朝から具合悪くて

しんどいみたいなんだ。

保健室連れてっていい?」

固まる先生は、おう…と言って

扉を開けてくれた。

私はやっとの思いで

「いや、私は大丈夫」と口に

したけど…

日下部くんは私の声を無視して

廊下を進んで行く。

「日下部くん、大丈夫だから

降ろして」

足の痛みを忘れて

ただただ恥ずかしい私は

日下部くんの腕の中で

身動ぐけど、日下部くんは

意外にも逞しい腕で

より一層力を込めて

「保健室に着くまでは

絶対降ろさない」と語気を強めた。

前を向いてひたすら歩く

日下部くんの顔は

すごく真剣で、これ以上拒否する

ことも憚られた。

やっと辿り着いた保健室には

先生は不在で、私を椅子に座らせた

日下部くんはテキパキと

動いている。

シンと静まり返る保健室は

すごく落ち着かない…

それに何も話さない静かな

日下部くんといるのも

気まずい。

「自分で出来るから、

日下部くんは戻って。

授業の途中だし…」

私の声が聞こえているはずなのに

うんともすんとも言わない

日下部くんにもう1度声を

掛けた。

「日下部くん、聞いてる?

私、大丈夫だから」

やっと振り返ってくれた

日下部くんの顔は

無邪気な顔とは程遠い

怒りを滲ませた顔で

私を見つめていて…

「なんで我慢ばっかするんだよ…

私は1人でも平気ですって

顔して…

少しは誰かに頼れよ」

そう言った日下部くんは

ひどく悲しげで…

泣いてないのに

泣いてるように見えた。

「別に我慢なんて…

それに1人が平気なんじゃなくて

1人が好きなだけ」

そう言った私に

近付いてきて…

次の瞬間、私は日下部くんに

抱きしめられた。

なに…??

なんで抱きしめられてるの?

「離して!!」

私の叫びも日下部くんに

抱きしめられた胸に吸い込まれて

消えてしまう。

誰かにこうして抱きしめられるのは

いつ振りだろう…

あ…律さんと出会った時か。

悲しみや苦しみ、寂しい時

律さんは真綿で包むように

私を抱きしめてくれたっけ…

それに安心したのを今も鮮明に

覚えてる。

でも、もうその律さんはいない。

パパもママもいない。

私は1人ぼっち…

だけど、私に寂しいなんて思う

資格なんてない。

私は3人を殺した疫病神。

そう…

こんな風に抱きしめられる

資格は私にはないんだ。

「日下部くん、離して」

忘れてはいけないことを

改めて思い出した私は

落ち着いた声で声を掛けた。

そっと緩んだ腕が

私をひどく安心させた。

「思い出させてくれて

ありがとう」

解かれた腕の隙間から

覗いた日下部くんに

私は笑顔を向けた。

そんな私を悲しげに

見つめる日下部くんは

私の目元に指を滑らせて…

「なんで、泣いてんの…

思い出させるって、なに?」

泣いてる?私が?

知らない間に流れた涙を

優しく拭ってくれる日下部くんの

問い掛けに、私は首を振って

「もう、私に構わないで」と

最初で最後の笑顔を向けた。