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───そして月日は流れた。


…コツ、コツ、コツ…


見慣れた本棚。

いつもの児童書コーナーに佇む。

窓の外には、昼間の駅を行き交う人々。

商店街は多くのマダムと学生で賑わっている。


(…そろそろ、魔法を解く頃だな。)


かつて消した少女の記憶を、少しずつ蘇らせる。

夜が来るたびに忘却の魔法を弱め、彼女の夢に現れた。

この出会いは、偶然じゃない。


…すっ。


その時、1人の少女が図書館の前を通り過ぎた


無意識に一瞬だけこちらを向いた彼女は、僕を見た瞬間、はっ!と足を止める。


(ふふ。…素直なところは変わらないな。考えていることがバレバレだよ、アリス。)


緩みそうになる顔を堪え、僕は、すっ、と歩き出した。

彼女をうまく誘うように。

この世界にいるうちは、決して交わらないように。


「貸し出し期限は1週間後までですので、お忘れなく。」


「分かりました。」


カウンターで本を借り、しっかりシオリビトの仕事もこなす。


たっ、たっ、たっ!


自分を追いかける足音に気づいた瞬間、懐かしい黒い髪の少女が視界の端に映った。


…おいで、アリス。

疑うことを知らぬ、無垢な瞳のままで。

好奇心に駆られた、純粋な心のままで。


僕の導く先には、君を待つ者がいる。

君を探して恋い焦がれる“彼”がいるんだ。


君たちの運命は、僕が繋ぐよ。


だから、その足を止めないで。

薄暗いレンガの路地を通り、蔦の絡まる壁の前で、金色のドアノブを回してごらん。


そして、その名を呼ぶんだ。


「…っ!ウサギさん…っ!!!!!」