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“…ト…、ミナト…”


遠くで、僕を呼ぶ声がした。

揺り起こされる感覚に、まどろみの中を漂っていた意識がだんだんはっきりしてくる。


「ミナト!!」


「っ!」


はっ!とした。

目の前に映るのはローズピンクの瞳。

ぼやけた視界の焦点が合うと、不安げに僕を見つめていたチェシャが、ほっ、と息をついた。


「…よかった…、目を覚まさないんじゃないかと思った…」


呼吸をしてそう呟いたチェシャに、僕はゆらゆらした意識の中尋ねる。


「…ここは……?」


「エラの家の庭だよ。…エラに魔法で飛ばされちゃったみたいだね、僕たち。」


顔を上げると、白い壁の可愛い家が見える。

見覚えのある森に目を細めた。

…と、その時だった。


「…娘には会えたかしら?」


「「!!」」


サク…、と芝生を踏む音が耳に届く。

ばっ!と体を起こすと、そこに現れたのは漆黒のドレスの女性だった。

赤い唇が緩く弧を描く。


「トレメイン…」


僕が小さく呟くと、魔女は、ふっ、と笑って口を開いた。


「あら、名前を覚えてくれたのね、嬉しいわ。」


無言で彼女を見つめていると、トレメインはわずかにまつげを伏せて続ける。


「…あの娘の魔力…?…まさか、エラの魔力も宿したのかしら?」