「…どうすればいい。」


眉を寄せて言った僕に、トレメインは静かに言い放った。


「簡単よ。…私にキスをすればいいの。」


「!」


「口付けを交わした瞬間から、あなたの体に魔力が宿るわ。」


脳裏によぎるのは、“エラ”だった。

ここで、契約を交わすことは彼女を裏切るのと同じことだと思った。

しかし、僕に迷う余地などない。

ジョーカーに追われるエラに会うためには、無力の人間を捨てるしかないのだ。


ぐいっ…!


クラクラするような甘い匂いがした。

トレメインの香水は、思考を鈍らせる。

一瞬重なった唇。

その時だけは、何も考えなかった。


…ポゥッ…!


体が光に包まれた。

彼女の目に映る僕の瞳は、深紅の薔薇色だ。


「…ふふ。…これで、あなたは魔法使いよ。」


不敵に笑ったトレメインは、低い声で僕に囁いた。


「エラの家はこの丘を越えた森の中よ。…愛しの彼女に、会えるといいわね。」


(…!)


そう言い残した魔女は、意味深な笑みを浮かべ、僕の前から消え去った。