その時、彼女がしみじみと呟く。
「すごいね…、王子様みたいな人が童話の世界以外にいるなんて…」
「王子様…?!」
ぶはっ!とつい、笑ってしまった僕。
至って真剣な顔で彼女がそう言うものだから、僕はツボにハマってしまって抜け出せなかった。
「何それ、僕のこと?大袈裟だなあ。」
「ほんとほんと!私の周りにもいろんな本物の王子たちがいるけど……」
「え?」
必死にそう訴える彼女は、そこまで言いかけてはっ!とする。
そして何か誤魔化すように僕を見て言葉を続けた。
「えっと…よ、よく童話の世界で王子様は出てくるけど…。私、この世界で会った中だと、湊人くんがいちばん“王子様”だと思う…!」
「…!」
(現実の世界では、って意味かな…?)
やけに焦っている彼女に、僕はくすくすと笑いながら答えた。
「そう言ってくれるのはありがたいけど、僕は“王子様”ってガラじゃないよ。」
「そうかな…?優しいし、いい人だと思うけど…。ほら、初めて会った時も本を取ってくれたでしょ?映画も一緒に来てくれたし。」
「それは、僕が“悪い人”だからだよ。」
「えっ?」
きょとん、とする彼女に、僕は微かに目を細めて口を開いた。
「僕は、エラに僕のことを知って欲しくてつい、声をかけちゃったんだよ。今日も、エラと一緒に居たかったから来ただけだし。…僕は優しい人なんかじゃないよ。」