『今の先生、すごくカッコ悪いです』
『………』
『本当は、ひとりで目を赤くして泣いてたくせに。悔しくて、悲しくて、本当は気持ちの整理なんて全然――』
『うるせーよ』
先生は乱暴に私のシャツブラウスを掴んだ。
その顔は、学校では見せない顔だった。
胸が、ドクンとした。
先生の中に見えた〝男の人〟の部分。
本当は、ずっと感じていた。
たまにかけている眼鏡姿の時も、
白衣から見える血管が浮き出た腕も、
耳に残るピアスホールも、
襟足がくるんと丸まっているくせ毛なところも、
本当はずっとずっと、心臓が高鳴った瞬間がいくつもあった。
婚約者の人と幸せになればいいと、願ったのは嘘じゃないし、先生の不幸を望んだこともない。
だけど……。
『忘れたらいいですよ。先生を振って去って行った人のことなんて』
私はそう言って、小さく唇を重ねた。



