『そんなのひどいです』と、私が言うと『大人の世界には色々あるんだよ』と、先生は婚約者だった彼女を責めることは一切言わなかった。
ムカついた。
他の人を選んだ女性に対してだけじゃなく、〝大人の世界〟と一線を引かれたことに。
ひとりでいた時はあんなに泣きそうな顔をしていたのに、私と一緒だと先生であり、大人になって、涙さえ見せてはくれない。
『本当は、死ぬほど好きだったくせに』
だって先生は、死ぬほど嬉しそうに彼女のことを語ってた。
『親が決めた結婚相手じゃなくて、俺を選べって怒ればよかったじゃないですか。聞き分けがいい男だって、カッコつけたいんですか?』
わざと、煽る言い方をした。
それでも先生は乗ってこない。
ただ『大人には大人の事情があるんだよ』と、冷静に言うだけ。



