たとえばきみとキスするとか。




「入れろ」

零は私の折り畳み傘を指さした。


「命令ですか」

「命令だよ」

まだ了承してないのに、零は私から折り畳み傘を奪ってバッと広げた。そして傘は零が持ってくれて、私たちは小さな傘の中に寄り添いながら歩く。


……肩が、当たる。

零はいつも早歩きなのに今は私の歩幅に合わせてくれていて、傘は私のほうに傾けられている。


「それじゃ、零が濡れるよ」

「風邪ひいたって俺のせいにされたら困るからな」


なにそれ。傘は強引に入れろって言ってきたくせに、私の風邪の心配をしたりする。優しいのか傲慢なのか、よく分からない。

地面にはすでに水溜まりがたくさんできていて、歩くたびにピチャッと跳ねる。


「ってかさ、ローファー履き潰すのやめなよ」

雨音と交互に聞こえるザッザッという、コンクリートを擦るような足音。


「いてーんだよ、かかとが」

まだ2か月しか使用していない零のローファーのかかとはすでにぺしゃんこになっていて、ピカピカだった新品の原型はどこにもない。


「え、痛いって春休みに買ったばっかじゃん。どんだけ成長する気?」

「知らねーよ。俺の細胞に聞け」


零の靴のサイズは28センチ。ちなみに身長は180センチで、まだ伸びているらしい。