「それ、蓮からもらったものだったの」
ずっと行きたいと駄々をこねていたけれど、なかなかお母さんとお父さんの仕事の都合がつかなくて行くことができなかった水族館。
小さい頃から両親は共働きで、私は鍵っ子だった。今では慣れてしまったけど、誰もいない家に帰るのがイヤで、夕方になると憂鬱だった。
そんな寂しさを唯一、打ち明けることができたのが蓮だったのだ。
「お母さんたちは忙しくて私の誕生日なんてすっかり忘れてて。それで『じゃあ、内緒で水族館に行こう』って、蓮が誘ってくれたんだよね」
ふたりでお小遣いを握りしめてバスに乗り、水族館の入場券を買った。
「それでアシカショーを見たり、熱帯魚から深海魚まで全部の水槽を回って、蓮はその間私が不安にならないようにずっと手を繋いでくれてた」
内緒で水族館に来てることよりも、手が触れ合ってることのほうが何倍もドキドキした。



