たとえばきみとキスするとか。




「たかがネックレスのために、こんなことするな」

零の瞳は怒りじゃなくて心配だった。


「たかがじゃないよ。私には世界で一番特別なものなの」

あの日から、私の世界はキラキラとしたものに変わった。

零は複雑そうな顔をしていて、まだ大きな手は私の頬に触れたまま。


「アイツから、もらったからだろ?」

零は蓮のことを名前で呼ばない。

前に一度だけ理由を聞いたら最大のコンプレックスだからって言ってた。


もしかしたら、あの日、蓮として私を水族館に連れていってくれたことも、そういう理由なのかもしれない。

きっと、蓮のほうがいいだろうと。私が蓮のほうが喜ぶだろうと、そうやって自分のことを隠したのかもしれない。


「ねえ、零。正直に答えて」

私は零の手を強く握った。


「このネックレスをくれたのは誰?」

私の真剣な目に、零はすべてを察したようだった。目を反らすこともなく、ただ、まっすぐに私たちは見つめ合う。



「俺だよ」

次第に強くなっていく、雨の音。それに負けないくらい私の心臓もうるさい。


この音を、私は知っている。

あの日、感じたものと同じ。

恋に、落ちた音だった。