たとえばきみとキスするとか。



「なにそれ、最低だよ」

好きな人に触れられることが、女の子にとってどれだけ大切なことか私は知ってる。

心臓が飛び出そうなほど緊張して、ドキドキして、その鼓動の速さが想いの深さを表してくれる。


「最低?べつにキスなんて減るもんじゃねーし、増えるもんでもねーし、ただ唇と唇を重ねるだけだろ」


ギシッと、ベッドのスプリングが軋んで、零がベッドから腰を上げた。そして私の前に立って射るような瞳を向ける。


「キスなんて簡単だよ。こんな風に」

零の顔が近づいてくる。


零は冷たくて、怖くて、イヤなことしかしてこないヤツだけど、人の気持ちを踏みにじるような人じゃない。

知らない。こんな零は、私の知ってる零じゃない。


「やめて……っ!」

私は勢いよく零を突き飛ばした。すると黒髪の隙間から見える目が鋭いものへと変わる。


「俺をこうやって拒絶するなら、中途半端な焼きもちなんて妬いてんじゃねーよ」

零はそう言って乱暴な足音を響かせながら、部屋を出ていった。


零が、私に苛立つのは当然だ。

私はこの干渉という名の焼きもちを、幼なじみだからって理由に書き換えていた。

最低なのは私だ。

零と向き合うことから逃げているのに、立派な嫉妬心だけが大きく育っていくんだから、呆れて零を追いかけることもできない。