「なにかあった?」
穏やかな足音が近づいてきて、蓮が私の顔を覗きこんできた。
「また零に、なにかされた?」
私は手首を隠しながら、首を横に振る。それでも蓮は納得していないような顔をして、「はあ……」と深いため息をつく。
「図書室で勉強なんてしないで早く帰ってくればよかった」
そう言って蓮は、私の頭を自分の胸へと引き寄せた。ふわりと蓮の匂いがして、私の身体は一気に硬直する。
「なにかあったら俺に言って。俺が莉子を守るから」
――『俺が莉子の笑顔を守るから』
あの水族館の時と重なる言葉。
「……っ」
色んな感情が入り交じって、涙がぽろぽろと溢れてくる。
私が好きなのは、蓮だ。
優しくて、暖かくて、いつも私を安心させてくれる。
だけど、だけど……。
悔しいぐらい、零が私の心にいる。
それがなんでなのか、理由は探さない。
まだ、探したくない。



