「本当に、女の人なんだね……」

「……え?」

「3万なんて、どう考えても安すぎるでしょ? 女目当ての、キモいオヤジかなんかだと思ってたからさぁ……。3万なんて安すぎだし。何か裏があるんじゃないか、って思ってたんだよね~」


 そう言って、安心したかのように小さく溜息を漏らした香澄は、耳元にあるキラキラと輝くお花のモチーフのピアスを揺らした。
 彼氏に貰ったというそれは、華やかな香澄によく似合っている。


「確かに……。そんな事、考えてもいなかったよ……」

「……もうっ。真紀はもっと、ちゃんと慎重に考えるべきだよ? 周りの意見もちゃんと聞きなよね」


 口を尖らせて怒りながらも、「……でも、家が見つかって良かったね」とポツリと零した香澄。


「うん、ごめんね。……ありがとう、香澄」


 顔を覗き込んで微笑みかけると、少しだけ照れた様な素振りを見せた香澄は、「ホント、真紀は世話が焼けるよねっ!」と言いながら携帯をロッカーにしまった。


「今日は週末だから、きっと混むねぇ〜。怠いなぁ。……そろそろ時間だし、行こっか」


 ぶつくさと文句を言いながらも、壁に掛かった時計を見てロッカーに鍵を掛けた香澄。そのまま扉の方へと向かって歩いて行く。
 それに(なら)うようにして自分のロッカーに鍵を掛けた私は、香澄を追うようにして更衣室を後にした。

 廊下を抜けた先にある店内をチラリと覗いてみると、夕飯時という事もあってか既にとても混雑している。
 それを確認した私は、一度小さく深呼吸をすると、「……よしっ。頑張ろう」と呟いてからホールへと続く道に足を進めたのだった。