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 その足で自宅へと帰ってきた私は、携帯を取り出すと未だに"未読"と表示されている画面を見つめた。


(香澄……っ。一体、どこにいるの……?)


 手の中にある携帯をキュッと握ると、進行方向へと向けて廊下に視線を移した——その時。
 キラリと光る何かが、私の視界に入った。


(? ……何だろう?)


 ゆっくりと廊下を歩いてソレに近付くと、私はその場に腰を下ろした。


(あれ……? これって……!)


 勢いよく”ソレ”を拾い上げると、目の前まで持ち上げてじっくりと見てみる。


(——!! やっぱり……!!)


 私の目の前で小さく揺れているのは、ラインストーンがキラキラと輝く、お花をモチーフにしたピアスの飾り部分。私は、コレに見覚えがあった。
 そう——香澄がよく、身に付けていたのだ。ユラユラと香澄の耳元で揺れていたピアスの光景を思い返す。

 私はゆっくりと顔を上げると、膝を着いたまま目の前の扉を見つめた。目の前にあるのは、開けてはいけないと静香さんに言われたあの部屋の扉。

 ——あの日、静香さんは誰も来ていないと言った。


(じゃあ……なんでコレが、ここに落ちてるの……っ?)


 やっぱり、あの日香澄はここに来ていたのでは……?
 そんな考えを巡らせながらも目の前の扉を見つめていると、突然背後から気配を感じ、私はゆっくりと後ろを振り返った。

 私を見下ろすようにして、無表情で立っている静香さん。その腰を屈めると、私の顔を覗き込んでニッコリと微笑んだ。


「——真紀ちゃん。何してるの?」


 思わず、背筋がゾクリと震えた。
 表情こそ笑顔だけれど、その瞳は決して笑っているようには見えないのだ。


「あっ、あの……っ。こ、コレが落ちていて……っ」


 ビクビクと顔を俯かせながらも掌を差し出せば、頭上からクスリと小さな笑い声が降ってくる。それに反応して顔を上げてみると、いつもと変わらない優しそうな笑顔の静香さんと視線がぶつかった。


「ありがとう、探してたの」


 そう告げると、私の掌からピアスの飾りを取り上げた静香さん。


「え……?」

「お気に入りだったのに、片方無くしちゃって探してたのよ。見つけてくれて、ありがとう」


 そう言って、ニッコリと微笑む静香さん。


(静香さん、の……?)


 いや——あれは、間違いなく香澄が付けていたピアスだ。
 可愛らしいお花のモチーフのその飾りは、静香さんの好みとも違う気がする。たぶん……いや、きっと静香さんはこの家で香澄に会ったのだ。

 目の前でニッコリと微笑む静香さんを見つめながら、私は汗ばんだ掌をギュッと握りしめた。