「……あっ! ねぇ、真紀の住んでる家ってどこにあるの? 私……ちょっと話してみるよ、静香さんと。話せば安全かどうかわかるし」

「あ……、家は教えられないんだ」

「え……? 何で?」

「静香さんがね……。持ち家だから、自分の知らない人に個人情報は話して欲しくないって」

「……わかった。じゃあ、探すよ。真紀から聞かなきゃいいんでしょ? なら、自力で探す!」

「……えっ!?」


 その突拍子もない発言に驚き、目の前の香澄を見つめて目を丸くする。


「ここから徒歩10分だって、前に言ってたよね? 真紀の帰る方向は知ってるし、大丈夫。……うん、探せるよ!」


 自信満々にそう宣言する香澄に、思わず唖然とする。


「家の特徴だって、前に真紀に聞いたし……。うん、絶対に見つける自信ある! 私が勝手に見つけたんなら、別に問題ないでしょ?」

「そこまでしなくても……。大丈夫だよ?」

「何言ってんの!? 絶対変だよ、その静香さんて人! 私が会って見極めてやるんだからっ!」


 胸の前で腕組みをすると、香澄はそう言って息巻いた。


「家賃3万だってさ……もしかしたら、女の子目当てかもしれないよ? 相手が女の人だからって、安心しちゃいけなかったんだ……。あーっ、もう! 私のバカ!!」


 ロッカーから取り出した荷物を雑に(まと)めた香澄は、「じゃ、早速今日探してくるから! バイト頑張ってね!」と足早に立ち去ってゆく。


「あっ……!」


 止める間もなく、立ち去ってしまった香澄。
 パタリと音を立てて閉じられた扉を眺めながら、大丈夫だろうか? と心配になる。追いかけたいのは山々だけれど、早番の香澄に対して今日の私は遅番のシフト。
 先程バイトが終わった香澄と入れ違いで、私は今からバイトなのだ。


(あと、八時間か……)


「とりあえず……。バイトが終わったら、連絡してみよう」


 そう小さく呟くと、私は更衣室を後にしたのだった。