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「……えっ!? 何それ! ……その人、レズなんじゃない?」


 最近あった静香さんとの出来事を相談してみると、一瞬驚いた顔を見せた香澄。


「やっぱり、そうなのかな……」


『男の人は好きじゃない』と、そうハッキリと言葉にしていた静香さんを思い返す。


「……で、どうするの? 家出るの?」

「う〜ん……。別に、偏見がある訳じゃないし。静香さん、良い人だから……」

「あのねぇ……、わかってる? 人の指舐めて何度も名前呼ぶって、異常だからね!? 真紀、絶対狙われてるから! ……家賃3万が惜しいのはわかるけどさぁ〜」


 私の言葉に急に怒り出した香澄は、最後には呆れたような顔をすると大きく溜息を吐いた。

 確かに、香澄の言う通りあの時の静香さんは異常だった。
 ピチャピチャと音を鳴らして指を舐めながら、私の名前を何度も呼んでいた静香さん。あの異常な光景は、私の脳裏に焼き付いて離れない。

 静香さんの色香にドキリとし——それ以上に、恐ろしさで背筋がゾクリとしたのを覚えている。
 それでも、やはり家賃3万はとても魅力的だった。


(そもそも、あそこを出たら住む家がなくなっちゃうし……)


 黙ったまま俯いていると、そんな私を見た香澄が小さく溜息を吐いた。


「……ごめん。出たくても、もう出れないんだよね。私も、同棲してなかったら泊めてあげれたんだけど……」

「ううん、ありがとう。頑張ってお金貯めて……1人暮らしするよ」

「まだまだ、先になりそうだね」

「……うん」

「話しぐらいなら、いつでも聞くから。何もできないかもしれないけど……、困ったら言ってね?」

「うん、ありがとう」


 心配そうな顔を見せる香澄に向けて小さく微笑むと、私は目の前のロッカーを閉じると鍵をかけた。