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「心外だよね、全く。わたしはファリテシア王国から来ましたって正直に言ってるっていうのにこの国の大人ときたら。みんな胡散臭そうな顔をしやがって。みんな憧れの王族のものだぞ、わたしは。魔法使えるんだぞ」
「女王陛下、頭の調子はいかがでしょうか?魔法は直系のファリテシア王族にしか相続されないのご存知で?我が国は引きこもってるわけですし、知らないのは無理がないかと」
「酷い、さらっと馬鹿にするルーテルのせいでマリス陛下の心はズタズタだよ。ていうか侍女の分際でわたしに楯突くとは…不敬罪で処刑されたいの?」
「不敬罪で処刑、ね…。処刑など不名誉なこと家族に迷惑がかかるので今ここで自殺しようと思います。

そうしておもむろに腰からナイフを取り出すファリテシア王国女王マリス付き侍女であるルーテル。無表情がデフォルトで、ファリテシアの者はその顔を『苦労人の顔』と評する。それに対しマリスは『心外っ!』と叫ぶのはもはや城の名物である。

「待ってっ?!ごめんねわたしが悪かったので今すぐその短剣をし待ってください!」

あわあわと侍女のルーテルの暴挙を止めるファリテシア王国女王マリス。
そこには王の威厳など欠片もない。




ファリテシア王国は実在する。魔法に心惹かれし他国の王達がこぞって攻めてきていたはるか昔、当時の王は『もうやだ、めんどくさい』とほざきファリテシア王国全土をすっぽりと覆う不可視となる結界を築いた。けっして、ファリテシアはショード・シマほどの大きさしかないから余裕などと言ってはならない。1000年以上経った今も変わらず結界はあるのだから。