「天内君、君はまったく大した人物だよ」


 しま子から花を受け取って、涙をゴシゴシ拭っていたら門川君が楽しそうな声で言った。


「しま子が記憶を取り戻すなんて、現実的に考えればほとんど可能性のないことだ。なのに気がつけば君はいつも、目の前の壁を予測不能のパワーでぶち破ってしまう」


 絹糸も愉快そうに同意する。


「そうじゃのう。しま子が元に戻ったならば、上層部もしま子を理由に永久と小娘の婚礼を阻止することもできまい」


 ……あ、そっか。


 鬼神のしま子をここに置いておくことと引き換えに、あたしとの結婚を諦めろって話だったわけだから。


 しま子が鬼神じゃなくなった以上、その交換条件は成り立たないんだ!


「じゃあ門川君との結婚、諦めなくてもいいじゃん! わーお!」


 ピョンピョン飛び跳ねながらバンザイして歓声を上げるあたしを見て、絹糸が笑う。


「ホッホ。今泣いたカラスがもう笑っておるわい」


 しま子も意味はよくわかってないみたいだけど、あたしが喜んでいるのを見て、一緒に飛び跳ねながら喜んでくれている。


 ズシンズシンとお腹に響く振動が、すごく幸せに感じた。


 そんなあたしたちを見ながら門川君がしみじみと言う。


「君は幸運を呼び寄せる。それは不可能なことを、ただ不可能だからと諦めないからだ」