「しま子……」


 しま子の様子を見守るあたしの胸に、ごまかしようもない小さな不安が生まれる。


 しま子、あたしの側にいてくれるよね? あたしを置いて異界に戻ったりしないよね?


 そんな言葉が口から飛び出そうになって、慌てて飲み込んだ。


 ダメだ。こんなこと言ったらしま子の意思を縛ることになる。


 そしたら鬼神になったしま子をここへ連れ戻したことも、しま子の記憶を取り戻したことも、なにもかも意味をなさなくなってしまう。


 すべてをしま子に決めさせるんだ。それはしま子の権利なんだから。


 息を詰め、小さな不安に胸をさざめかせながら、あたしはしま子をじっと見守った。


 すると、門川君の顔をじっと見つめていたしま子が急にクルリと背中を向けて、道場の外へ向かって歩き出した。


 あたしは頭を殴られたような大きなショックを受けて、呆然と立ち尽くしてしまった。


 し、しま子。まさか行ってしまうの……!?


 みんなも慌ててしま子の背中に呼びかける。


「しま子、どこへ行くんですの!?」


「まさか異界へ戻ってしまうのでおじゃるか!? 里緒殿はずっと信じて待ち続けていたでおじゃるのに!」


 みんなの声を聞きながら、それでも一歩一歩、しま子は遠ざかって行く。


 あたしは今にも胸が破裂しそうなくらい悲しくて苦しくて、ノドが詰まって声も出せなかった。


 どうしよう、しま子が行っちゃう!


 引き止める権利なんかないことはわかってるけど、それでも異界になんて行かせたくない。


 あたしの側にいてほしいんだよ……!