すっかり穏やかな雰囲気になったところで、門川君が急に真面目な顔になった。


「しま子、こっちへおいで。大事な話があるんだ」


「あうぅ~~?」


 しま子は道場の隅っこの方で、チンマリと正座しながらこっちの様子を窺っている。


 門川君に手招きされておずおずと立ち上がり、遠慮がちに近寄ってきた。


 そしてふたりは向かい合い、見つめ合う。


「しま子。君と僕との使役の契約はもう解除されたし、君をこの場に留める権利は誰にもない」


「あうぅ?」


 しま子は不思議そうに首を傾げて、門川君の言葉に聞き入っている。


「だから、今度は君が自分の意思で決めてくれ。異界へ戻るか、それともここに留まり天内君を守り続けるかを」


「…………」


 しま子は黙ったまま、丸い目でしげしげと門川君を見つめている。


 その澄んだ目を見ながら、あたしは門川君が以前に言ったことを思い出した。


『しま子が異界へ帰ることを望む日が来たら、そのときは笑って見送ろう』


 あたしと初めて出会った日、しま子は滅火の力によって強制的にあたしの護衛役になった。


 でも本来ならしま子本人が何を望んで、何を成すかは、しま子にしか決められない。


 鬼神に戻った時点で、門川君としま子との使役の契約が強制解除されたから、しま子は本当の意味で自由の身になった。


 ついに自分の意思で、自分の道を選択すべき日がきたんだ。