「…千歳くん、」


当たり前だけど、千歳くんだって絵の具を使って色を生み出す。

あたしのように、こころは見えないんだと言っていたけれど、彼の持っている力は普通の人を優に超えることにはもう気づいている。




「ん、なに?」

「今日ね、千歳くんの作品を見たの」


メロンパンの袋を丁寧に結んでいる千歳くんに、言葉を投げかけた。教えるかどうか迷ったけど、心のどこかで「言って見たい」とあたしが叫んでいたから、言った。


「…勝手に見てんなよ。スケベ」


表情を変えないまま、千歳くんはそう言った。いつもと変わらない口調。それでもやっぱり、“ いい表情 ” はしない。


「…美術室で、たまたま見つけて。コレは千歳くんの作品だって思ったら、当たってたの」

「ふーん」

「まるで、秋の日の足元に浮かぶ色だった。どんな感情なのか気になったよ」


ずっと下を向いている彼に話しかける。ゆっくりと足元を動かすと、またコツンとつま先がぶつかった。

当たった先にあった大きな足は、顔を背けるように、退けられた。



「秋の色って言ってもね。色が分かんないから、あーいう色遣いしかできないだけだし。感情も何もねーよ」

「…そんなこと、なかったよ?」

「そんなことあんだよ。自由自在に色を生み出せるお前とは違うの。あんな冷たい作品、すごいとか言うのお前だけだから」


…冷たい声。少しだけ、心臓がドクンと鳴った。千歳くんの中に、苛立ちが生まれたのが分かった。

分かっている。あたしが、無神経だった。「そんなことない」なんて、言える立場でもなんでもなかった。

ハシバ先生だったら、少しは説得力を持って言えたのかなあ、なんて考えてしまう。