「今日は勉強しようかなって…。何もしてないから」
まさか、期末の存在を忘れていたなんて、間抜けすぎて言えない。
「ハ? あんなの日々の勉強でなんとでもなるだろ。サボってばっかいるから」
「さ、サボってないよう! ただあたしはちょっと期末だってことを忘れていただけであって…!」
…あ。言っちゃった。
「それ、もっと重症だろ…」
千歳くんの顔が、この上なく険しくなった。きっと今までで1番、呆れられている気がする。
千歳くんだって、たまに授業抜け出しているくせに。でも“ 学校の王子 ” が、頭が良いことは女子の噂で回ってきた。だから知っている。
千歳くんが言う、「日々の勉強」だけでなんとでもなる人なんだ。
「…いいんだもん。お昼ご飯食べ終わったらやるんだから」
千歳くんから、顔を逸らした。千種はずっと、あたしたちの様子をまじまじと観察している。
でも、あたしの言葉にもう一度千歳くんがため息をついた時、「そろそろあたしは帰ろうかなあ」と言って、席を立った。
「え、千種もう帰るの?」
「ウン。今日は世界史をやりたいからね。授業なかったから、勉強道具、家だし」
「ええ〜」
…たしかに、世界史は1日目だもんね。あたしは数学と生物しかないや。その2教科をするしかないね。
どっちも期末2日目だ。明々後日だけど、今からやったって追いつかないくらいは危ない教科だから、いいか。
自分で考えてて、まったく虚しくなる。
「んじゃあね、天香。ちゃーんと、勉強するんだよっ」
あたしと千歳くんを交互に見た千種。ニヤッと口元を上げて、あたしの前髪をぐしゃっと撫でた。
「ありがと、千種」
「また明日ね。一色くんも、またね」
「…あぁ、ドーモ」
ひらひらと手を振って、珍しく通学かばんを背負って行く千種を見送った。いつもスポーツバッグなのに。今日はなんだか、普通の女子高校生みたいだ。



