星夜光、きみのメランコリー



「活動は主に外国だったんだけどな。教員になったばかりのころ、東京で開かれた作品展に行ったことがあるよ、俺」


千歳くんの絵を見ながら、静かにそう言った。昔のことを、思い出しているのだろうか。

…先生はまだ、若いけど。


「千歳くんのお父さんの?」

「そう。お前らが、小学生くらいの頃かな」

「…」

「今じゃもう、名前は見なくなったけどな。」

「…そうなんだ」


千歳くんのお父さんは、絵を描くのをやめたのだろうか。

この間千歳くんは、あたしにお父さんの絵と、秘密を明かしてくれたけど、そのことに関しては何も触れていなかった。

どうしてお父さんが絵を描かなくなったのか、表に出なくなってしまったのか、それはまた、千歳くんの心の中にしまわれているのかもしれない。

…しっかり、鍵をかけて。



「…でもまぁ、一色もなかなか才能のある奴なんだけどな。昔から」

「…?」



昔から…?


それは、千歳くんのお父さんが?
それとも、千歳くんが?


気になって口を開いたら、まるで目を覚まさせるように予鈴が鳴り響いた。

ゴンと、頭頂部を打たれた気分だった。


「ほら、予鈴なったぞ。あと1時間頑張ったら帰れるだろ。早く行け」

「…? そうでしたっけ」

「アホ。今日からテスト週間だろうが。明後日から期末だぞ」

「…!? あ————!!!」


すっかり忘れてた…!すっかり忘れてた…!

もう梅雨も明けた夏。そろそろそんな名前のテストが迫ってきてもおかしくない。

授業中はずっとノートに散りばめられた色たちと会話してるか、外に出ている千歳くんを眺めているかしかしていなかった…!


「期末テストの存在知らねーの、この学校でお前くらいかもな」

「先生…!ひどいです!あたしは存在は知ってましたが忘れてただけです!」

「死ぬ気でやれ」


一気に冷や汗が吹き出してきた。

なんてことだ。だから今日は千種も身軽だったんだ。いつも部活の重そうなバッグを肩からかけているというのに!


とりあえず、次の数学の授業を真面目に受けるべく、先生にさよならを言って美術室を飛び出した。