…まるで、木枯らしが吹き始めた秋の、足元に広がる景色みたいだ。
「あ?どうした。人の作品見て」
顔を覗かせた先生。あたしのところまで寄ってきて、黒い眼鏡をかちゃかちゃと動かすと、「あぁ、一色の」とつぶやいた。
「…やっぱり」
あたしの勘は、当たった。この絵は、千歳くんの作品だった。絵の具を使った絵は初めて見たけれど、どことなく、彼を連想させる。
「千歳くん、絵の具使うんだ」
色をつけることは、苦手なんだと思っていた。白と黒の世界しか、描かないと思っていた。でも、そうじゃないんだ。授業だからなのかな。
「一色な〜。もう少し真面目に描いてくれればいいんだけどよ…」
「不真面目なんですか?」
「んー。描く時と描かねぇ時のムラがな、あるんだよな」
ハシバ先生は、ハァと息を吐いた。きっと困っているんだ。でも、千歳くんの気まぐれを知っているあたしから見たら、なんとなく想像できる。
「ま、そーいうとこも、画家って感じだよな」
「……」
ハシバ先生は、きっとなんとなく言ったんだと思う。あたしが、何も知らないと思って。
でも、あたしはもう知っている。千歳くんのお父さんが、“ 画家 ” だったこと。
「…先生、千歳くんのお父さんのこと、知ってるの?」
美術教師である先生が、千歳くんのお父さんのことを知っていても何も不思議じゃない。
むしろ、有名な画家だったなら当たり前なのかもしれない。
でも、先生は少し驚いたような顔をして、あたしの方を向いていた。
「…知ってるもなにも、この世界では有名だからな。って、彩田も知ってんのか」
…あぁ、やっぱり。
「知ったのは最近です。図書室に、一色千秋さんの作品集があって」
「…ふーん。置いてあんだ、ウチの学校」
「はい。この間、千歳くんが見せてくれました」
「…」
先生は、壁に立てかけられたキャンバスを持って、「そうか」と呟いていた。



