あの日から、千歳くんには会えてない。

それまでは、結構近くにいたような気がするのに、会う理由も機会もなく日にちだけが経ってしまった。

…って言っても、1週間くらいだけど。


結局、連絡先だって聞けずに終わってしまった。右京くんからは、たまにメッセージが入ってるから、その時は返信したりもしてるけど。

千歳くんのことは、話せてない。




“——天香 ”

“ 天香、さみしいの? ”


「……え?」


キャンバスから、伝わってくる。

さっき、自分の手で生み出した色たちが騒いでいる。あたしの心を読んでいる。


さみしいの? なんて。それはどういう意味なのだろう。


“ 悩んでるの、天香 ”

“ 悩んでるね 悩んでるね ”


騒いでいる。まるで面白がるように、笑っている。


「…悩んでる?」


何で? 千歳くんのことで?


「そんなことない」


“ でも天香、会いたいって顔してる ”


「あっ、会いたい顔…!?」



ガタッ!


…そんな音がして、その瞬間に自分がその場に立ち上がっているのに気づいた。

左手がツンと引っ張られている。千種だ。キャンバスの影に隠れたまま、「ちょっと」と口を動かしている。


クラスメートからの痛い視線に気づいた。やっちまった。また、1人で暴走してた。



「彩田、お前何騒いでんだ」


ハシバ先生がいつのまにか遠いところにいて、そこから顔を出しながら叫んだ。


「ご、ごめんなさい………」


クスクスと聞こえる笑い声。そしてどよめき。その中で身体を小さくして、座り込む。

…あぁ、最悪だ。だから嫌なんだ、美術の時間なんて。



「…天香、あんたまた深々と世界に入り込んでたわね」


千種が、困ったように笑ってた。あたしのこんなところを見ても、笑ってくれるのは彼女くらいだ。



「ちょっとトイレ行ってくる…」

「ん、気合い入れなおしといで」

「ハイ…」


それでも、クラスメートの視線はどうしても痛いから、少しだけ休憩してこよう。