先生はやっぱり、すごい人なんだと思う。
「“ 悩み ” ってのは、別に暗いものだけじゃねぇからな。どうしていいか分からない、心がふわふわとしている状態。それが、お前の絵から感じ取れたものだったんだよ」
「…」
…どうしていいか、分からない状態。
「…ま、思春期だからな。お前みたいなボーッとしたやつでも、色々考えてるモンがあるんだろ」
「ちょ、それは失礼」
メガネの向こう側で、ハシバ先生はニヤリと笑った。まだまだ子どもなあたしたちの心を、すっかり見透かしてしまっているような顔。
でも、悔しいけど、それは図星だ。
「ま、いーよ。そのままお前の好きに描け。彩田、センスはずば抜けていいんだからよ」
「…ありがとうございます」
あたしがお礼を言うと、先生は隣の席の子のところに移った。
パレットに再び視線を移そうとした時、反対側に座っていた千種と目が合う。
「…あんた、なんか悩んでんの?」
…やっぱり。さっきの話、聞いてたんだな。
「別に悩んでるわけじゃないよう。先生から見たら、そう見えたってことじゃない? あたしは、色を生んで遊んでいただけだし」
「…ふうん」
悩み。悩みかあ。
悩んでいるって言うほど、あたしは重たくは受け止めてはいないんだけどな。
…それでもやっぱり、気になっていることが、こうして色に出てしまうのだろうか。
“ 俺ね、色が分からないんだ ”
…この前、千歳くんに聞いたこの言葉。
夕焼けが綺麗だった、空が色の宝庫だったあの時から、あたしの頭の中に、彼の声がずっとこだましている。



