「…一色くんは、よくこの場所に来ているの?」


星の光を浴びて振り返った彩田 天香は、ふふふと笑いながら俺の横に腰掛けた。もう、流れていた赤は、彼女の体内に留まったらしい。

「まーね。たまにの気分転換」

「ほおお。じゃあ前からこの場所を知っていたんだねぇ!」

「まぁね。少なくとも彩田さんが見つける前からは」


急に張り合いたくなった。彼女の方が先に見つけていたら、とか、考えもしなかった。張り合う意味も、よく分かんなかったけど。


「あたしは、今日のセイヤコウが綺麗だなあと思ってきたのだよ!だからまさか一色くんと遭遇するとは思ってなくてだな」

「こっちだってまさか流血してる人間と出くわすなんて思ってなかったよ」

「だからぁ!それはこの木のせいだよ」


彼女の人差し指が、目の前の大きな木を指差した。あの木から出ている枝にやられたらしい。


「…じゃあ、もうここには来ない方がいいんじゃない。それに、彩田さんに夜は似合わないよ」

「ええ、そう?」

「うん。絶対にね」


はじめて会ったとは思えないほど、自分が他人と話している事実に驚いた。でもそれはきっと、彩田さんが話しやすい人間だからだと思う。きっとそう。

たった数分のうちに、俺自身がそう感じているのだから本物だ。


彩田 天香は、となりに座ったまま、しばらく俺の方をじっと見つめていた。「なに」と聞くと、また八重歯をのぞかせたまま、にひひと笑う。


「…一色くんは、セイヤコウが似合うね」


そして、彼女が生んだ言葉は、そのまま夜の冷たい空気へと吸い込まれていった。


…星野光が似合う。そんな風に言われる人間が、この世界に何人いるのだろう。

なかなか言わないだろう、星野光が似合うなんて。


「それはドーモ」


何気なく、足を運んだ夜。俺の夢に包まれた世界。


「俺が一色だって、よく知ってたね」

「知ってるよう。隣のクラスだもん。一色千歳って、フルネームも言えるよ」

「…ふーん」


どうにもならないと思っていた。今だって思っている。

俺の世界は、常に黒。そして、夢は星野光。




「…じゃあ、仕方ねーから、俺も覚えるよ。彩田 天香」




そんなとき、俺はこの世界のひかりに出会ったのだ。



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