念のため、右手首にはリストバンドを着けた。傷口を、周りの人に見られないため。

長さ5センチほどあるそれを隠すには、リストバンドじゃギリギリだけど、仕方ない。


左腕には時計。スマホと財布だけを鞄に入れて、肩から下げた。


「行ってきます」


小さく呟いて玄関を出れば、部屋の中よりもはるかに熱い空気があたしを囲んできた。

それは、太陽の光の力。手を前でかざして上を見ると、さまざまな色たちが生まれている。


「…太陽の、色だね」


次々に零れ落ちていくその色は、本当にあたしにしか感じられないものなのだろうか。

人って、本当に不思議。


「あんまり熱いと、みんな、へばっちゃうから。たくさん落ちてきちゃだめだよ」


まるで、黄金の砂のよう。キラキラと輝きながら街を覆っている。その色たちが降りかかった人たちは、みんな暑いと汗を拭った。






15分くらい歩くと、おばあちゃんの家が見えてくる。昔からある家。小さい頃から何度も遊びに来ていた場所。

お店を経営している両親は、夜までお店につきっきりだったから、よくおばあちゃんのところまで歩いておやつをもらっていたんだ。


「…おばあちゃん、天香です」


インターフォンを鳴らすと、すぐにエプロン姿のおばあちゃんが出て来た。
「さあ、入りな」という言葉と共に生まれる笑顔。


一歩踏み入れれば、リビングまでの廊下には、さまざまなものが飾られているのが見える。


…その中に、何枚も何枚も連なって飾られている、あたしの名前。