状況に似合わない、あっけらかんとした態度に、戸惑ってしまう。


「残念ながら知らない。それより、彩田さん? この状況でそんな呑気なこと言ってられないんじゃない」


思わず掴んでしまった腕。ぎゅっと力任せに握っているけれど、ハンカチもそろそろ限界かもしれない。

…そのくらい、滲んでいる。


「……血、止めないと」


赤は見えない。全て、黒に見える。それは俺のせいもあるし、夜のせいもある。それでも、こんな風に腕からポツポツと生まれてくる雫なんて、血液以外の何があるだろう。

まさか、身体が泣くわけじゃあるまいし。


「おおっと。止血するために突然掴んできたわけか、一色くんは。怖いもの見せちゃったね」

「……別にいーけど。それよりもなんで血が出てんの」


しかも、見せびらかすように腕を横に伸ばして。たらたらと流しておけば、止まるとでも思ったのか。

…それとも。


「…けがしちゃったんだあ。この辺、人が立ち入らないところだからね、木の枝も伸び切っちゃってて」


“ 見事に擦っちゃったよね ” と、目の前の少女は言った。笑っていた。

周りを見渡してみると、確かに木々は整備されておらず、伸びっぱなし。視界も悪いこの時間じゃ、けがするのも無理ないか。

…変な憶測。取り消そう。


「暗くてどのくらい切っちゃってんのかよく分かんない。でも血はだいぶ止まってきた」

「ほほう。てことはそんなに深くなかったんだあ」

「…みたいだね」

「一色くん、手当できる系なんだね。すごいなあ〜」


にひひ、と、彩田 天香は笑って見せた。その時に見えた八重歯が、星と同じ色に光っていた。