鎌倉駅まで2人で歩く。その中でも、何でもない話をしていたけれど、一色くんは思い出したように「あ」と声を発する。



「彩田さん家が長谷駅の近くならさ。初めて会った時はなんであんなとこにいたわけ? 夜に学校近くの公園の草むらって、不自然じゃない?」



今日の一色くんは、よく質問する。そして、あまり気にしない。聞きたいことははっきりと聞く人なんだと言うことを知った。


「危ないよ、仮にも女の子なんだし」

「ちょ、仮にもは要らなくないですか?」

「心配してんだよ、仮にも女の子だし」

「2回も言わなくていいよう!」


誤魔化すように笑う。



「あの時は、夜の星が綺麗だったから、なんとなく見に行った。それだけだよ」



本当に、星は綺麗だったんだ。学校帰りに見上げた夜空は、雲ひとつない真っ黒な世界で。

その中で、あたしが持っている相棒のノートと同じような色たちが散りばめられていたから。

…見たこともないくらい、きれいだったから、行ったんだ。



あの日、自分が見たくないものから、逃げるために。



「…彩田さんって、なんか掴めない人だね」

「えっ? そうかなあ。どの辺りが?」

「そうだよ、なんとなく」

「ふーん。でもそれは一色くんも同じですヨ」



見たくないもの、向き合いたくないものから逃げた先に、彼がいた。見事な星野光があった。

あたしの一部に、やさしく触れてくれた人がいた。

…あの日、一色くんに会えただけで、すべてがどうでもよくなった。

そう、伝えられたらいいんだろうけど、今はまだ言えないや。