「…意味が分かりません、千歳くん…」
「言わないと分かんないの?」
「わ、わかりません…」
「…ふ、じゃあなんで泣いてんの」
「わかりません〜…」
ぜんぶぜんぶ、分からないよ。
千歳くんのこと、全然知らないんだもん。
突然あたしの世界に入ってきた人。
あたしの心に入ってきた人。
あたしの心を奪っていった人。
でも、あなたのことは、ほんの少ししか知らないよ。
それでもね、気がついたら、だいすきになってたよ。涙が出るくらい。
「…お前さ、俺がなんとも思ってないやつのココに、あんないじわるすると思ってるの?」
「し、指示語ばかりでわかりません〜…」
「指示語ってなんだよ」
本当ばかだね、と言って、千歳くんはあたしのリストバンドを外しながら笑った。
「じゃあ、仕方ないから観念してあげるね」
「…?」
「すきなんだよ、天香のこと」
「へ…」
「それで、多分天香も、俺のことすきでしょ?」
あらわになった腕に、千歳くんはやさしくくちびるを這わせて言った。
傷口にくちびるを押しつけたまま、こちらを見るその目が、妙に色っぽくてドキッとした。
「ね、そうでしょ」
「…ッ」
だんだんと暗くなる教室に、千歳くんの声だけが響く。その声に、耳がくすぐられていく。
千歳くんは、最後までずるいひと。
「…うん、すき」
自然と出たその言葉は、オレンジから紺色にバトンタッチした色たちに、吸い込まれていった。
「素直でいいじゃん」
彼がそう言って笑ったあと、腕に感じていた温かい体温は、くちびるにやさしく降ってきた。



